経営戦略を包括的に検証する「VSPRO」「SPRO」フレームワーク
VSPRO and SPRO frameworks

ADLの開発してきたフレームワークの中の代表例である「VSPRO(Vision, Strategy, Process, Resource, Organization)」「SPRO(Strategy, Process, Resource, Organization)」 について紹介します。

ADLは、長年にわたり、各国政府機関や業界リーダー企業に対して、事業・研究開発戦略立案、組織マネジメントや改革支援を行っており、多様なプロジェクト経験をベースに独自手法も開発し更に進化させ活用してまいりました。例えば、MFTⓇ(Market Function TechnologyⓇ)、VSPRO(Vision, Strategy, Process, Resource, Organization)、SPRO(Strategy, Process, Resource, Organization)、SMT (Strategic Management of Technology)といった手法が代表例として挙げられます。

ここでは、1990年代初期にADLによって開発されたSPRO Ⓡ、その進化版であるVSPROⓇについて詳細を紹介いたします。SPROおよびそこにVを加えたVSPROは経営システムを考える際に有効なフレームワークです。

1990年代、大型M&AによるBPR(ビジネス・プロセス・リデザイン)の失敗例を背景に、Strategy・Process・Resource・Organizationを整合させることが、真の高収益企業になる鍵であることをADLが提唱し、SPROモデルが生まれました。このコンセプトは、1994年11月にダイヤモンド社から出版された『製造業の高収益革命~新たな発展への6つの「ビッグ・ヒット・プロジェクト」~』(ADL社著)で最初に紹介されています。当該著作物の中で、SはStakeholdersと紹介されていましたが、様々なプロジェクト議論を通し今ではStrategyのSとして定着しています。

その後、BPRや企業の統合・合併が進行するにつれ、成長軌道に乗せられる企業と、思ったように成長できない企業が出てきました。両者の違いを分析すると、経営層および従業員におけるビジョンや価値観の共有化ができている企業では、より成長性が高いという分析結果が明らかになり、SPROの上位にビジョンを組み合わせたVSPROというモデルが誕生したのです。

VSPROモデルの場合、企業や事業の内部環境を5つの視点で評価することができます。5つの視点とは、ビジョン(V)、戦略(S)、プロセス(P)、リソース(R)、組織(O)で、経営システムを構成するこれら5つの要素について、あるべき経営システムの姿と、現状を比較し、その差異を分析することが可能になります。VSPROモデルを図で表すときには、頂点に企業が掲げるビジョンを配置し、その下にそのビジョンを実現する戦略、戦略を実行するプロセス、戦略・プロセスを実施するためのリソース、戦略・プロセスを実施する組織を三角形で配置します。(図A)。

2000年代からは、VSPROモデルは、事業戦略のみならず、R&D戦略、組織改革など、企業経営における課題整理や、具体的施策策定の際の、重要フレームワークとして定着しており、今日のPurpose経営あるいは両利きの経営等にも適用できる基本コンセプトとして活用されています。

VSPROⓇ 、SPROⓇ、VSPROのロゴ、SPROのロゴは登録商標第6825253号、第6820305号、第6825254号、第6820306号としてアーサー・ディ・リトル・ジャパンにより登録されています。

図A VSPROは経営システムを分析するためのツール

 

最も重要な点が、ビジョン(ありたい姿)がしっかりと定義されており、それが企業全体で共有されているかという点です。経営システムにおいて、ビジョンの共有化ができていない場合、現状の認識や価値観の違いによって、企業の進むべき方向性が明確化されず、せっかく戦略を立てても、それがプロセス、資源、組織に十分に浸透せず、思ったような効果が生まれません。

一方、ビジョン(ありたい姿)が明確になっており、組織のビジョンと個人のビジョンが整合している場合、進むべき方向性のぶれが小さくなります。これによって、戦略・プロセス・資源・組織が有機的に結合し、四つの要素に好循環が生まれ、成長スピードが速まるわけです。

VSPROの進化系として、VSPRO-Lというフレームワークも開発されています。ラーニング(L)を足したもので、VSPROで立案・実行した経営システムのサイクルを回し、課題や改善点などを学びによって進化させながら継続して組織が成長できることの重要性を説いたものです。

VSPRO-Lモデルは、Innovation Associates(1990年代にはADLの子会社)を立ち上げたDr. Peter Senge(MIT教授)が、「Learning Organization(学習する組織)」という概念を著作物で提唱し、組織ラーニングの重要性を欧米大手企業に浸透させたことに起因します。VSPRO-Lという新しい概念が、ADLのコンサルティングプロジェクトでも多様されるようになりました。


■SPRO、VSPROの経緯

1990年代初期 ADL米国オフィスがSPROを開発

1994年11月 ダイヤモンド社発行ADL執筆書籍『製造業の高収益革命~新たな発展への6つの「ビッグ・ヒット・プロジェクト」~』で、SPROモデルを紹介

1998年頃 SPROにVを加えたVSPROのフレームワークとして、役員研修、ビジョン合宿、その他コンサルティングプロジェクトに活用。

2000年まで VSROにLを加えたVSPRO-Lとして集大成。

2014年6月 ものづくりドットコムのWebサイトに「SPRO」はADLのモデルであることが記載

ものづくりドットコムのWebサイトにおける記事「革新的テーマ発見のために自社の強みを抽出する」の中で、「強みを抽出する切り口」として、マッキンゼーの7Sモデルに続いて、「ADLのSPROモデル」が紹介されています。

2017年5月 グロービスのWebサイトに「V-SPRO-L」はADL発であることが記載

グロービスのWebサイトの書籍「新版グロービスMBA経営戦略」を紹介する記事中で「変革や戦略を推進・実行できる組織ですか?」という見出しのもと、「V-SPRO-Lとは、企業変革における全体像を押さえるためのフレームワークであり、ADLによって開発された。」という記載があります。